4.住まいの性能と長寿命化

 建物の品質の最低基準は『建築基準法』に定められていますが、建物が使用される長い年月を考えると、最低基準を守るだけでは万全とは限りません。

 保木本設計では住まいの長寿命化を目指して、独自の目標を設定して設計を行っています。

1.耐震性・構造設計について

①耐震基準を守っても『安心』はできない

 建築基準法による耐震基準は、建物が一度は遭遇するであろう巨大地震時に『ひとまず建物が倒壊しない安全性』を目標としています。

 では、耐震基準ギリギリで建てた住まいがどうなるかというと・・・

  • 倒壊はひとまず免れます
    ⇒避難することは可能です。(耐震基準はこれを目標としています。)
  • 家が傾いたり、ひび割れたりするすることはあります
    ⇒修理には高額な費用が発生します。災害後は需要が集中し、修理に時間がかかります。
  • 余震で倒壊するほど、深刻なダメージを受ける恐れがあります
    ⇒ここまでくると修復不可能です。残念ながら、その家にはもう住むことができません。

 実際に2016年に発生した熊本地震では、巨大地震が連続して襲ったことで、耐震基準を満たす住宅が倒壊した事例も見受けられました。このことからも、耐震基準を満たしていても決して安心はできないことがお分かりいただけると思います。

 したがって、保木本設計では『安心』できる住まいづくりのために、耐震基準よりも更に一段高い目標をもって設計することが望ましいと考えています。

②耐震基準と確認申請

 建築前に行政で法適合性を確認する『確認申請』という制度があります。

 確認申請を受ければ耐震性も確保されていると思われがちですが、実は住宅のように小規模な建物の場合は耐震性能に関する審査は省略され、建築士のモラルに任されています。(モラルが低い場合は、耐震基準に満たない設計になることもあり得るということです。)

 そこで、『住宅性能評価』や『長期優良住宅』など、審査を受けて耐震性能を等級別に表示(耐震等級1~3)することができる制度をお勧めしています。

 きちんと計算したという証拠が残るだけでなく、住まいの性能が明瞭になることで、住まい手の皆様もご安心いただけると思います。

③多雪地域で耐震等級2以上を確保

 鳥取市近郊は積雪量1m以上の多雪地域に属しており、雪の積もりにくい一般地域よりも高い耐震基準が設定されています。

 保木本設計では、それより更に一段高い目標を設定し、耐震等級2以上(耐震基準の125%以上の強さ=学校など公共の避難所レベル)の性能を確保することを原則としています。

 耐震性能を高めることは建物の変形を抑えることに繋がり、繰り返し起こる余震への備えはもちろん、内装等に対するダメージも最小限に抑えることができます。

 なお、住まい手のご要望により、更にレベルの高い耐震等級3の設計にも対応しています。

④構造計画はインテリアにも活かす

 保木本設計では、梁や屋根面を表した住まいが多いことが特徴です。

 木造住宅では、『耐力壁』が耐震上重要な役割を果たします。しかし、それを単独で考えるのではなく、屋根・床・基礎などを含めた間取りとのバランスを同時に考えることが肝心です。合理的に耐震性能を確保しながら、美しく整ったダイナミックな骨組みをそのままインテリアとして活かすことができます。

 後付けのインテリアとしてではなく、構造面の安全性を優先しながら自然に設計することが重要なポイントです。これは構造設計とデザインを両立できる設計者だけが実現できる醍醐味と言えます。

2.断熱性・住環境づくりについて

①高断熱化で自由な暮らしを実現する

 住まいを高断熱化する最大のメリットは、室内の温熱環境が均一化されることで、健康的で自由な暮らしが実現することです。

 かつての日本の住宅は、空調の効果を最大限に高めるため、夏季や冬季にはドア・カーテンを閉めて閉鎖的に生活することが一般的でした。吹き抜けも『寒い空間』として認識されてきましたが、その原因は断熱性能の不足にあったと言えます。

 住まいを高断熱化することで、従来に比べて空調にかかるエネルギーはわずかで済むようになります。カーテンやドアを開け、日差しを取り入れながら自由で開放的な暮らしを楽しみましょう。保木本設計の特徴である、吹き抜けや庭などの中間スペース本来の魅力を享受することができます。

②とっとり健康省エネ住宅 NE-STについて


 2020年、鳥取県は全国に先駆けて高性能住宅の独自基準『とっとり健康省エネ住宅(NE-ST)』を定めました。NE-STでは、国の定める省エネルギー基準を大幅に超える、高い断熱性能と気密性能に加えて、結露防止など耐久性を向上させるための基準も設けられています。

 住まいの高性能化には、それなりの初期費用がかかりますが、そのための手厚い補助制度も用意されています。ワンランク上の住環境づくりをご希望のお客様には、NE-STに適合する設計をご案内しています。

③断熱グレードと、高断熱化するための設計

 保木本設計では、耐震性能と断熱・気密性能を確実に両立する観点から、『ボード気密』と『外張り断熱』を中心に、工法を工夫しながら20年来取り組んできました。現在は、国が定める省エネルギー性能の最高等級を上回る、HEAT20 G2グレード(概ね、NE-ST G-1グレードに相当)の断熱性能を持たせた住まいづくりに努めています。

 なお、断熱材の厚みを増やしたり、高性能な断熱材を使用することで、計算上の断熱性能は上がります。しかし、その効果を最大限に発揮させるためには、精度の高い施工が必要です。住宅の工事では、大工工事・電気工事・配管工事など、短い期間に様々な種類の工事が入り混じりますから、施工性に配慮した設計と工事監理が重要になります。 

  • 高性能な断熱材を使えば良いわけではありません
    ⇒よく見かける『〇〇を使っているので高断熱』といった広告は、間違いです
  • 確実に性能を発揮するための設計が必要です
    ⇒誰がやっても(不慣れな職人さんでも)作業性の高い、合理的な設計を取り入れています
  • 正しい施工のための工事監理が必要です
    ⇒保木本設計では、職人さん任せでなく、最初に設計意図をしっかり説明します

 設計事務所の強みである独立した設計・監理は、断熱の面でも役立っているのです。

④数値だけに囚われないことも重要

 断熱性能は数値で表せることから指標になりやすく、最近ではUA値(断熱性能を示す数値)をアピールした宣伝広告も多く見かけるようになってきました。しかし、住まいづくりの本質は数値だけでは表せないことも忘れてはいけません。

  • 窓を小さく、少なく設計すれば、数値上の断熱性能は向上します
  • 一方、窓が小さいと外部との繋がりが薄くなります
  • 窓が大きいと、冬場の暖かい日差しの恩恵を受けられます

  断熱性能は住まいの基本性能であり、本質ではありません。保木本設計では、断熱性能・日射熱・換気方式などを専用のプログラムで計算し、その上で敷地の持つ固有の魅力を活かす住まいづくりの提案を行っています。ただ闇雲に数値を追い求めるのではなく、敷地の状況や住まい手の暮らし方に合う、総合的な設計が必要なのです。

3.耐久性・材料選びについて

①シンプルだけど、しっかりした屋根

 保木本設計では、屋根はシンプルな形状で、軒先を伸ばして作ることを原則としています。シンプルな屋根づくりには、たくさんのメリットがあります。

  • 地域に馴染む、落ち着いた佇まいを生みます
  • 軒先により外壁面や窓が保護され、材料が長持ちします
  • 軒先が夏の暑い日射を遮り、冬の暖かい日差しは取り込むことで、良好な住環境づくりができます

 また、屋根は雨を直接受ける部分ですから、作り方には特に注意してトラブルの発生を未然に防ぐようにしています。近年では、コストダウンのために軒先を作らない家が急増しています。しかし、雨漏りが生じたり外壁の痛みが早くなれば、住まいの寿命を縮めることに繋がり、将来的に多額のコストがかかることになってしまいます。

 屋根の形状一つでも、住まいの耐久性と住環境を考慮し、慎重に検討するべきだと言えます。

②自然素材を活用

 建築材料には、木や和紙、漆喰や珪藻土などの自然由来の素材をお勧めしています。自然素材は工業製品と違って材料の質や仕上がりが均一ではありませんが、その特徴も含めて味わい深い材料です。

 長い年月をかけて色や質の変化が起こることも魅力の一つです。経年劣化ではなく、経年美化と表現できるでしょうか。住まい手と共に育っていく材料と考えると愛着が湧きませんか?

 また、私たちの設計事例ではスギのフローリングが多く使われています。暖かくて足馴染みが良く、素足でも快適に過ごせるため、私たちのコンセプトにぴったりな材料だと考えています。傷が付きやすい材料として紹介されることもありますが、多くの住まい手にはそれも『味』としてご満足いただけています。

③汎用的な材料と工法

 保木本設計では、できるだけ汎用的な材料実績が多い工法を用いて設計することを原則としています。時代や場所を問わず手に入る材料を使い、いつでもどこでも安定して工事できるように設計することが、最も単純ながら住まいを長持ちさせる秘訣だと考えているからです。

 私たちがお勧めしている自然素材は、商品の入れ替えなどで廃版になることがありません。どこでも手に入るものばかりですから、メンテナンス性の面でもメリットがあります。トラブルが起こった場合でも、前例のある修繕方法を用いることができます。

 建築家の設計といえば、独特なデザインを成立させるための『攻めた工法』も特徴の一つですが、私たちのやり方はその対極と言えるかもしれません。

④流行モノや特殊な設備は避ける

 流行の建材や特定のメーカーだけが製造する特殊な設備は、できるだけ避けるようにしています。住まいを長く使っていく上で、メンテナンス面のデメリットが大きいと考えているためです。

 壁や天井などに埋め込まれるタイプの設備機器は、撤去するだけでもひと手間かかります。採用に際しては、将来を見据えて慎重に考える必要があると思います。

  • 流行モノは、完成時点では最新でも、時代が変われば陳腐化する可能性があります。
    ⇒建物の美しさも、長寿命化のための重要な要素です。時間が経っても古びない、味のある住まいが良いと思いませんか?
  • 建材商品は、いつか廃版になります。
    ⇒将来、部分的な交換等をする場合でも、色柄の異なる材料で補修するのは好ましくありません。
  • 特殊な設備は、メーカーの撤退時や部品の製造停止時のリスクが高いと言えます。
    ⇒空調設備などは、なくなると生活に支障が出ます。使えなくなってしまう事態は避けなければなりません。