私は建築士ですが、筋金入りの高所恐怖症です。その傾向は幼少の頃から表れており、遊園地に行っても絶叫系アトラクションの類には近づきもしませんでした。『鳥取砂丘こどもの国』にかつて存在した空中ブランコのような遊具は特に苦手で、相当離れた距離を歩くようにしていました。近づくと「一緒に乗るかい?」と問いかけられるからです。近づかなければ、問いかけられる機会も減る。子どもながらリスクを排除する術を知っていたのですね。親の立場からすると、せっかく遊園地に連れて行ったのに残念だったかもしれません。
かの空中ブランコのような遊具ですが、白浜アドベンチャーワールドに現存します・・・。こどもの国の遊具はこれの巨大版だったように記憶しています。怖い・・・。
ところで、建築設計の仕事では高所に上る機会もあります。正直言って気乗りはしませんが、仕事ですから避けては通れません。先日、某所の調査で久しぶりに高所作業車に乗る機会がありました。カゴに乗って地上20mほどの高さまで上ります。安全講習を受けたオペレーターが操作するとはいえ、やはり怖いものは怖い。
そもそも、高所恐怖症を発症するのは身の危険を感じるからで、人間の本能だと思います。例えば同じ高さのビルでも、ガラスで守られたレストランのような場所では落ち着いて食事ができますが、壁のないオープンな場所だと恐怖心が生まれます。ゆえに、高所作業でもしっかりと安全対策が取られていれば、おそらく高所恐怖症の私でも問題はありません。
しかし、作業用の足場や安全設備の設置には当然費用が掛かります。通常、建築工事では仮設工事費が見積に明示され、それに従って安全対策が行われます。一方、設計者が行う調査や点検では、公共事業であっても安全対策するための費用を出してもらえないケースがほとんどです。費用対効果が低いからでしょうか?
したがって、名目上は「安全対策費を頂けないので、安全な場所から目視調査しますね」となるのですが、現実的にはそうはいきません。詳細な図面を作るためには危険なタラップを上ったり、一歩踏み間違えれば墜落するような状況であっても調査するしかないのです。ということは安全対策費用を当然見込むべきなのですが、そうはならない。不満と矛盾を感じざるを得ません。
ちなみに、現在では労働安全衛生法の改正により、高所作業を行う際には『フルハーネス型』の安全帯を着用することが義務付けられています。フルハーネス型とは、従来の『腰ベルト型』とは違い、全身に着込むタイプの安全帯です。『高所作業』とは地上2m以上の場所での作業を言います。
安全帯の違い(ビルディ)
高所から墜落した場合、腰ベルト型の安全帯では落下時の衝撃荷重が腰だけに掛かります。そのため、命は助かったとしても骨や内臓に大けがを負ってしまい、後遺症が残るケースも多くあったようです。一方でフルハーネス型は落下時の衝撃荷重が全身に分散されますから、体への負担が少ないのです。しかし、設計者が行う調査ではそもそも安全帯を引掛ける場所がないので、使用することはほとんどないでしょう。
法改正により工事作業者の安全性が高まっていくのは大変良いことですが、設計での調査も一種の高所作業なのですから、安全対策の必要性が認知されていってほしいものです。